内外調査

2016年1月21日 (木)

欧州と豪州の畜産用センサの現状と動向


 第4回MEMS協議会海外調査報告会が1月21日にMMC新テクノサロンで開催され、今回は特に特別報告として世界の家畜に関連する報告がなされました。

    
              写真1 会場の様子

 この報告は特別報告として「欧州と豪州の畜産用センサの現状と動向」と題して技術研究組合NMEMS技術研究機構およびマイクロマシンセンターの武田宗久から、イギリス、エクスターのeCow社、オーストリア、グラーツのsmaXtec社、オーストラリア、ガトンのQueensland大学、および Sydney大学の報告がありました。

      
            写真2 武田から報告

 最初に畜産業の産業内の位置付けとして、国内の畜産は農業生産額の31%を占める最大(2.5兆円産業)であること、世界のスマートフォンの台数が2012年に約7億台に対して、牛の数は15億頭と極めて大きな数字であるとの報告でした。また子牛の誕生、生育、乳牛、健康管理や販売に至る産業形態も説明がありました。牛用のセンサとして各種体温計(深部、耳、膣等)、発情検知(モーションセンサ)、ルーメン(胃)のPHセンサの説明と、何故センサによる牛の管理が必要であるかの説明、受胎率の向上や、生産病(肺炎やストレス)等の課題の説明もありました。また現在取組を行っている、SIP次世代農林水産産業創造技術の研究内容の紹介によって、現在の最先端の状況も判りました。

 海外の状況として、最初に英国のeCOW社は、2007年に設立、Royal Agricultural 大学のToby Mittram教授がCEOです。PHセンサに無線モジュールを付けたセンサで、既に1000台以上が出荷されているようですが、実際に稼働しているのは250台とのことです。

 またオーストリア、smaXtec社は2009年設立、製品のラインナップは広く、Phセンサに加え、気象センサ、センサステーションも含み、出荷台数は2015年に2万台とのことです。このルーメンセンサPHセンサと温度センサを搭載し、センサ内メモリに蓄積したデータを纏めて送る仕組みです。

豪州の調査では、クイーンズランド大学とシドニー大学の調査報告がありました。この大学ではルーメンセンサや温度センサ、ストレスセンサを活用している(特に運搬時のストレス評価のため)とのことです。

                (報告者:マイクロマシンセンターの武田宗久)


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2015年12月17日 (木)

海外出張報告(オーストラリアにおける畜産センシングの調査)


 畜産大国であるオーストラリアにおいて、畜産センシングの現状及び市販ルーメンセンサの適用状況を調査するとともに実用化時の海外展開の可能性を検討するため、畜産用無線センサネット(グリフィス大学)、畜産の繁殖及び健康モニタリング(クイーンズランド大学)と生産性向上のためのモニタリング(シドニー大学)の権威を訪問したので、その結果について報告する。

 今回の調査で、オーストラリアにおける畜産センサシステムの社会実装に関しては、日本とはニーズが異なることが明らかになった。日本では、放牧ではなく畜舎において繁殖管理、飼養管理をしっかりと行って、高品質の肉や乳製品を生産するために、畜産センサシステムを活用することを考えている。それに対して、オーストラリアでは、人件費が高いこと及び全飼養頭数が2,600~3,000万頭と多いため、1農家当たりの飼養頭数が多い(北オーストラリアの平均的な農家の飼養頭数は約3,000頭とのことであった)ことから、多数の牛を少人数で管理するために、畜産センサシステムやロボットを活用することを考えている。しかしながら、現在内閣府の「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」の一環として、畜産センサコンソーシアム(代表機関:国立研究開発法人農研機構 動物衛生研究所[新井 鐘蔵])で研究開発している畜産センサの開発内容を紹介したところ、開発中の畜産センサはオーストラリアのニーズでも十分に使えることが分かった。従って、オーストラリアは開発畜産センサの実用化時に大きな市場となり得ることが明らかになった。以下各訪問機関での調査概要について簡単に述べる。

(1)グリフィス大学ゴールドコーストキャンパス

 グリフィス大学(英語:Griffith University)は、1971年に創立され、クイーンズランド州の州都ブリスベンと、観光都市として有名なゴールドコーストに位置する総合大学である。ブリスベンからゴールドコーストにかけて5つのキャンパスがある。今回訪問したゴールドコーストキャンパスは、最近では新しい学科が開設され、創立時キャンパスであるネイサンキャンパスよりも学生数が多くなっている。Micro and Nanotechnology Centre も2011年に新設されている。

 グリフィス大学では、MEMSセンサの権威のDr. Dzung Viet Dao(Senior Lecture)及び無線の権威のProf. David Thielを訪問し、SIPプロジェクトの概要を紹介するとともに畜産センサ用無線に関して、議論を行った。畜産用センサ無線では低消費電力化が重要であるとの認識で一致した。写真1にグリフィス大学のMicro and Nanotechnology Centre が入っているScience, Engineering, Architectureビルの写真を、写真2に訪問したDr.Dao及び伊藤先生とScience, Engineering, Architectureビルの玄関で撮った写真を示す。

      
    写真1 グリフィス大学Science, Engineering, Architectureのビル

      
 写真2 Dr. Dao(中央)、伊藤先生(左)とScience, Engineering, Architectureビルの玄関で


(2)クイーンズランド大学ガトンキャンパス

 クイーンズランド大学(英語: The University of Queensland)は、1909年創立のオーストラリアクイーンズランド州ブリスベン、セントルシア地区に本部キャンパスを持つ州内で最長の歴史及び最も権威ある大学である。4つのキャンパスがあるが、今回訪問したガトンキャンパスは、1897年にクイーンズランド農業大学として開校し、1990年にクイーンズランド大学の機関になったキャンパスで、農学と畜産関係の学科が集まるキャンパスである。1,068ヘクタールの広さを有する。

 クイーンズランド大学では畜産の繁殖及び健康モニタリングの権威であるProf. Michael McGowanを訪問し、SIPプロジェクトの概要を紹介するとともにオーストラリアの畜産センシングの現状を把握した。Prof. McGowanはe-Cow社のルーメンセンサを使用した経験もあり、こちらの方は、数週間は安定的に使用出来ていることが分かった。また、我々の開発するセンサに関して非常に興味を持って頂き、是非とも実証実験を行いたいとのコメントを得た。写真3にクイーンズランド大学獣医学部のビルを、写真4に今回訪問したProf. McGrown(右から2番目)及びDr David McNeill(右端)と獣医学部のビルの前で撮った写真を、写真5に奥の牛舎で暑熱対策の実験を実施しているクイーンズランド大学の牧場を示す。

     
        写真3 クイーンズランド大学獣医学部のビル

     
   写真4 Prof. McGrown(右から2番目)及びDr David McNeill(右端)と獣医学部のビルの前で

     
   写真5 クイーンズランド大学の牧場(奥の牛舎で暑熱対策の実験を実施)

(3)シドニー大学カムデンキャンパス

 シドニー大学(英語: The University of Sydney)は、1850年にオーストラリアのニューサウスウェールズ州(当時は植民地)の州都シドニーに設立された同国最古の名門大学である。約10のキャンパスを持つ。今回訪問したカムデンキャンパスはシドニー市街から車で2時間くらいのところに位置した獣医学部と農学部のキャンパスである。

 シドニー大学では肉牛のモニタリングの権威のAssociate Prof. Luciano A Gonzalez及び乳牛のモニタリングの権威のProf. Sergio C. Garciaを訪問し、SIPプロジェクトの概要を紹介するとともに飼育設備の見学及び畜産センシングに関する討議を行った。写真6に今回訪問したAssociate Prof. Gonzalez(左)とProf. Garcia(右)を示す。

       
  写真6 Associate Prof. Gonzalez(左)とProf. Garcia(右)

 Prof. Garcia は過去にKahne社のルーメンセンサを使用した経験があり、その結果、文献に記載されている通り、コンセプトとしては密度を軽くして、第1胃の上部に浮遊させて使用し、反芻時の逆流や肛門への移動を防止するため、フレキシブルな羽根構造を持っていることが分かった。羽根構造が壊れることはなかったが、信号受信レベルは非常に悪く数時間~数日しかデータ取得が出来ず信頼性は良くないことが分かった。

 また、世界に3台しかないスウェーデン製(Delaval社)の全自動搾乳システムを保有し、センサを含めた積極的な自動化の研究開発を進めていることが分かった。全自動搾乳システムによる飼育の手順を図1に示す。牛は普段は放牧場で牧草を食べているが、乳が張ってくると自分で全自動搾乳システムのところに集まってきて、順番に全自動搾乳システムに入る。そうすると、先端にカメラのついたロボットアームが乳頭の位置を計測して、乳頭部分に洗浄液をかけて洗浄した後、その位置に吸引器を持っていって、乳頭に吸引器をセットする。全ての乳頭に吸引器をセットするが、乳頭間隔が狭いため、エラーを結構起こしていた。全ての乳頭にセット出来なかった牛は搾乳量が所定の量に達しないため、1周目では出口が開かず、2周目で再チャレンジするとのことであった。24頭の牛が回転台で1周する間に搾乳をする。搾乳量も計測・管理されており、過去の履歴等から設定された所定の搾乳量を搾乳できれば、吸引器が外され、出口の扉が開いて牛は出て行く。牛が出た後は自動で回転台の糞尿が掃除されて、入口から次の牛が入って来る。以上の動作を繰り返すものであった。全自動搾乳システムを出た牛は自動給餌機に自分で行って、搾乳量に見合った濃厚飼料を貰って食べ、濃厚飼料を食べ終わるとまた自分で放牧場に帰って行くという手順であった。ルーメンセンサを投入した牛や濃厚飼料の量や内容を変更した等の実験牛も基本的には同じように飼育されており、e-Tag情報で判別して、一括して得られたデータを解析しているとのことであった。

 
         図1 全自動搾乳システムによる飼育手順

 本調査は、総合科学技術・イノベーション会議のSIP(戦略的イノベーション創造プログラム)「次世代農林水産業創造技術」(管理法人:生研センター)によって実施したものである。
                       (マイクロマシンセンター 武田宗久)


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